― 甘いもの ―

 

          「関平」

            「星彩、鍛錬終わったのか?」

            「うん」

 

            揮っていた斬馬刀を下ろし、こちらへと歩いてくる星彩を待つ。

 

             「そろそろ関平も休憩した方がいい」

 

            言われて見上げた空は、始めたときよりも随分と陽が傾いていた。

 

            「そうだな」

            「水」

            「あ、有難う…」

 

            用意のいい彼女に申し訳なさを感じながらも、手渡された竹筒から伝わる冷たさに自然笑みが出る。

            温くならないうちにと喉へそれを流し込めばあっという間に飲み干してしまった。

            思っていた以上に喉は渇いていたらしい。

 

            「水分補給はこまめに」

            「う…ご、ごめん…」

 

            返す言葉もなく項垂れる。

            と、俯けた顔の前に星彩の手が伸ばされた。

            その上には淡い桃色の紙に包まれた丸いものが載っている。

 

            「?これ…」

            「疲れたときには甘いものがいいって」

 

            微かに香るのは確かに甘そうな匂いだ。

 

            「桃饅…?」

            「そう」

            「珍しいな…」

 

            女性は得てして甘味を好むというが目の前の彼女は例外か、もしくは父親に似たのか甘いものは苦手としていたの

            だが。

 

            「女官の人たちに渡されて…」

            「何でまた?」

            「さあ…“鍛錬頑張って下さい”とか“応援してます”と言われて渡されたのだけど…」

            「それって…」

 

            親衛隊…?

            そういえば月英殿にもそんな人たちが居たなあ…なんて思わず遠い目で考えてしまった。

            どうやら蜀では戦う女性が人気なようだ。

 

            「…貰っていいのか?」

            「そうでなければ渡さない」

            「まあ…そうか」

 

            何だか女官の方々に悪い気もするが、腐らせるよりは遥かにマシだろうと受け取る。

            後で星彩に気持ちだけはしっかりと伝えておこうと思いながら、包みを破らないように丁寧に開けた。

            出てきた丸を二つに割って口に運ぶ。

 

            「美味しい…」

            「そう」

 

            星彩の顔に微笑が浮かんだ。

 

            「…勿体ないな…」

            「結局は他の人に食べてもらうのだから、同じよ」

            「え?…あ!うん、そ、そうだよな!」

 

            知らず零していた言葉に汗が流れる。

            その裏に含んだ自分の考えに、顔が熱くなるのを彼女への頷きに誤魔化した。

 

            (何を、考えてるんだ俺は…)

 

            星彩が気付かなかったのがせめてもの救いか。

 

            「それに」

            「?」

 

            何とか熱を冷して息をついていたなか、掛けられた星彩の声に背けていた顔を戻した。

 

            「甘いものなら、もう貰ってる」

            「!せせせ星彩?!」

 

            再び上がる顔の熱に、彼女の言葉に混乱する。

            けれども彼女は自分の問いかけに答えることはなく。

 

            「〜〜〜〜〜っ」

 

            返ってきたのは先ほど以上の笑顔。

 

 

 

            「聡すぎだ…」

 

 

 

 

            蜀の女官を騒がす彼女。

            戦う姿に憧れるのか、その冷静な姿に憧れるのか。

            その人気は日に日に高まる。

 

            けれど、

 

            あの笑顔を見たらもっと彼女を好きになるだろうに。

 

 

 

 

 

            「聞き逃すには勿体なくて」

            「いや、もう、勘弁してくれ…」

 

 

 

 

            そんな甘いもの。

 

 

                         

                                               05.03.24UP

            ・・・・・・・・・・・・・・・

            いや、これはちょっと(かなり?)気分で書いたものなので…その……。スミマセン。夢見過ぎです。

            あ、でもうちの力関係は関平<星彩で変わらないかも(笑)

            星彩は顔は母似で好みは父似だというマイ設定です。(酒豪は辛いものの方が好きだと聞いたので)

            でもって関平は気を抜くと一人称が“俺”となって欲しい。(これはマイ願望ですが・笑)

 

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