酒を楽しむには上手い料理と

共に呑む人間と

後は花を咲かせる話題があればいい

 

 

― 酒の肴 ―

 

 

「これはこれはお待ちしておりましたぞ、関平殿!」

「いえ、遅くなって申し訳ありません厳顔殿」

 

機嫌良く扉を開けた厳顔の顔はほのかに赤く、その後ろへと視線を寄越せば同じように笑顔を浮かべた数人が座っている。

黄祖に丁奉、いずれも国を支える将だ。

それぞれの前には幾つかのつまみと盃。

いわゆる酒宴というものである。

宴と言っても城で上げるようなものではなく、普段気の合う仲間や仕事を共にする者たちで開いた軽いものなのだが。

仕事の多い関平は呼ばれていたこの席に一刻ほど遅れしまったのだ。

 

「座を乱してしまいましたか」

「何を仰るか、酒はまだまだこれからですぞ!

 それに関平殿のお陰で今からはもっと話が盛り上がるはずじゃ!」

 

場を提供した厳顔の言葉に他の者も頷く。

 

「では今回も殿たちのお話をされてたんですね」

「然様、わしらが揃えばそれ以外にはないじゃろう」

 

そうだそうだと周りからも豪快な笑いが上がる。

砕けた中の温かな雰囲気に関平は目を細めた。

 

 

 

「私が来るまでは皆さん何を話されてたんですか?」

 

食事を済ませ、後は盃を傾けるだけとなった頃関平はそう問うた。

 

「ああ、確か“何故この国に来たか”という話じゃったかのう」

「それは…話が弾んだでしょう」

 

周りの人間――将である彼らの内、元からこの国に仕えていたものは少ない。

それでも“降った”とは言わず、来た”と言うことから、笑みを深めたことから彼らの話は決して暗いものではなかったはずだ。

 

「仰る通り、関平殿がいらっしゃるまで皆長々と語っておったぞ」

 

関平に酌をしながら語りかけてきた丁奉もかつては敵だった将だが、その口調には国に対する愛情が感じられる。

 

「長々ですか、それは勿体無いことをしましたね」

「またいつか同じことを話すだろうて、その時に聞いて下され」

「そうですね」

 

きっとまたこのような席で同じ話を語るのだ。自分もここに集った皆も。

いつでも、何度も国の話を、殿や仲間の話をする。

それだけこの国を、暮らす人々が好きなのだ。

 

「関平殿はどうなんじゃ?」

 

和やかな雰囲気を醸し出していた中、厳顔がふと関平に聞いた。

 

「私、ですか?」

「うむ、関平殿は建国からじゃて“来た”というよりは“何故付いて来たか”、となるが」

 

唐突な質問だがそれまで話を続けてきた者たちにとっては自然な流れなのだろう、皆興味深そうに耳を傾けている。

 

「私は…」

「ああ!本当に皆集まってる!!」

「「「様?!!」」」

 

勢いよく扉を開けたのは軍の要、大将軍であるだ。

その表情にいつもの笑顔はなく、酷く不満げである。

 

「私たちだけ除け者にするなんて、随分冷たいなー」

「除け者なんてまさかそんな!!じゃなくて、何でここに居るんですか!様!!」

 

驚きから復活した丁奉が戸惑いつつも声を上げる。

 

「居ちゃ悪い?」

「悪いとかじゃなくて、供もつけずにこんな所に来ないで下さい!」

 

そんなことは関係ないと言い混乱する周りに構うことなく座る彼女は、本来城下へと軽々しく出れる身分ではない。

軍として重要なだけでなく、ここに居る誰もが守るべき殿の唯一の肉親なのだ。

乱れた今の世、敵が真っ先に狙ってもおかしくない人物なのに。

 

「大丈夫、負けることはないから」

 

笑っていう彼女の傍らには戦場を共にする愛刀がある。

確かに彼女なら滅多なことが起きることもないと思うが、それでも危ないことに変わりはない。

そう伝えようと丁奉は再び口を開くが、

 

「だって皆と話す方が大事だもの」

「………」

 

こう言われてしまっては、何も言うことは出来ない。

 

「困らせてごめんなさいね、丁奉」

「「「!殿っ!!」」」

「と言っても私も困らせてしまいそうだけど」

 

新たに場へと現れ苦笑する女性こそ、今まで話題に上がっていた殿だ。

それこそ誰よりも警戒が必要な彼女までここに居るとは。

余りにもの衝撃に三人が固まる。

 

「殿、道中危険は?」

「大丈夫です。怪しい者も居ませんでしたし、城の警備にもここに来ることはちゃんと伝えてきました」

 

始終落ち着いていた関平がに確認すると、心得ていたようにそう答える。

 

「まあ軽率な行動には変わりないのですが、私もの言う様にこういう機会は大切にしたいと思ったので」

 

一緒に来てしまいましたと、そう微笑んで言うに固まっていた厳顔たちの力が抜ける。

そうだ、こういう人たちだから自分たちはついてきたのだ。

 

「一応おつまみに唐揚げを持ってきたのですが、このようなもので良かったでしょうか?」

 

変わらぬ笑顔でのほほんとそう続けたに、更に脱力する。

そうだ、こういう人だから自分たちは守ろうと思ったのだ。

 

(((流石です、殿…)))

 

「まあ取りあえず集まったんだからさ、楽しもうよ」

 

それまで黙っていたが明るく言う。

危なっかしくてハラハラさせられるが、彼女たちの行動に嬉しさを感じているのも確かで。

 

「そう、ですな」

「殿のお持ち下さった唐揚げもおいしそうですし」

 

結局自分たちは彼女らに頭が上がらないのだ。

 

 

 

 

「そういえば、関平殿」

「何ですか?」

 

隣に座る厳顔の声にたちの話を聞いていた顔を向ける。

 

「先ほどの答えはどうなんじゃ?」

「ああ…」

 

先ほどの、“何故付いてきたか”という問いの答えのことだろう。

引き戻された話題に暫し思いを馳せた関平は、厳顔に笑みだけを返した。

 

「関平殿?」

「そうですね、取りあえずは“杖の転んだ先に殿が居たから”としておきましょうか」

「……迷子の子どもかね」

「そこから迷う心配だけはありませんよ」

 

諦めたように息をつく厳顔を横目に、視線をたちへ戻す。

 

 

 

 

(これは誰にも言うつもりはないですからね…)

 

“何故付いてきたか”と問われれば、“それが殿だから”と答える。

それ以上は語らず。その深淵はただ胸に。

 

 

「酒の肴にするには、些か勿体ないですしね」

 

言葉は夜に溶け込み、響く笑い声が関平の笑みを深めた。

 

 

                                                                  05.4.3 UP

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周りから見た主人公たちを書きたかったんですが…上手くいかず…すみません未熟者で。

か、関平はこれだけエディ子2が好きなんだ!ということで…。

今回えらく真面目。ギャグがないのがこんなに難しいとは思いませんでした。

 

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