しんしんと

 

             積もるは、

 

 

 

           ― 白 雨 ―

 

 

 

             「…自殺でもするつもりか」

 

             徐々に全てを白く染めゆく庭の中、目を伏せ立ち尽くす少女に深いため息をつく。

 

             「…そのように繊細な人間に見えますか?」

 

             ゆっくりと視線を空へ向け、柔らかく微笑む彼女はいつもと変わらぬようで、

 

             「ならばその頭上に白を纏っているのは、何かの遊びとでも?」

 

             全く違う。

 

             体温に溶けないほどここに居たというその証拠に、眉間の皺がまた増えたことを感じた。

 

             「ああ、それも風流かもしれませんね」

 

             軽く瞬いて、笑みを深くする彼女。

 

             「阿呆」

 

             その様子が、酷く気に食わない。

 

             「…凄い切れ味ですね」

 

             “その剣技のままです”と言い、上げる笑い声に無意識に歯をかみ締める。

 

             「嫌味か?それは」

 

             愛刀を揮うように容易く切り払えたら、どんなに清々とするだろう。

 

             こんなにも

 

             捕らわれている彼女を

 

 

             絡みつく枷も、何もかも切り捨ててやりたい。

 

 

             そう、強く望んでいるのに。

 

 

 

 

 

 

              「…そんなに自分を痛めつけるな」

              「……気のせいですよ」

 

              再びその瞳を伏せた彼女に、抑えていた何かが、溢れた。

 

              「だったら、何故俺を見ない!」

              「――っ」

 

              溢れたそのままに掴んだ彼女の腕は余りにも細く、

 

              「何故俺の名を呼ばないんだ!」

              「………」

 

              より一層、募る。

 

              深まる苛立ちに、もどかしさに、どうにかなってしまいそうだ。

 

 

              「お前は、……俺さえも

               その中に入れたくないのか…」

              「―――っ違います!」

 

              否定の意が滲む言葉に、ようやく合った瞳に知らず込めていた力が微かに緩んだ。

 

              「こ、れは私の、私の勝手な…っ」

              「………」

              「勝手な…思い、なんです」

              「………」

              「だから、……巻き込むわけにはいかないんですっ」

 

              ゆらゆらと視線を彷徨わせ、段々と俯いていく彼女の頬に手を伸ばす。

 

              「

              「――っ!」

 

              それが触れるか触れないかの距離で、名を呼ぶ。

 

              「

              「…………」

              「

              「っ、でっでもっ!」

 

              伝わりそうで儚いこの距離の向こうに、

 

              「

              「っ…

 

                                                        師匠 」

 

              呼ぶのは、呼べるのは彼女だけで。

 

 

 

 

              「遅い」

              「そ、そんなことを言われてもっ」

              「…まあ、俺まで凍えさせなかったことは良しとしよう」

              「ああ!す、すみません!大丈夫ですか?!寒くありませんか?!!」

              「…………どこから突っ込んでいいのか分からんのは俺だけか…?」

              「?え?何ですか?」

 

              「阿呆」

              「…ですから、痛いんですよその言葉…」

              「お陰でこの寒さでも麻痺せんだろう?」

              「………師匠…」

              「まあそれも自分には効かんしな」

              「あ…」

              「行くぞ」

              「……………はい」

 

 

 

              しんしんと

 

              積もるは、数多なる想い。

 

 

              降らすも

 

              溶かすも

 

 

              ただ一人。

 

 

 

 

              「……温かいです」

              「…………………余程冷えたんだろう」

 

 

 

 

 

              願わくば

 

              自らも

 

 

              せめて、溶かすもので在れますように。

 

 

 

                                                                 05.04.16UP

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              まず、とんでもなく季節外れなものをアップしてしまったことに謝罪を。…かなり前に書いたものの蔵出しです。

              今年は雪が結構遅くまで降ったのでこんなん書いたんですよね。

              …肝心の内容はそれと正反対ですが。そんな話でした。

 

 

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