「――――っくしっ!!」

           「風邪ですか?」

           「いえ……そうですね、どなたかが私の溢れる才能を噂しているのかもしれませんね…」

           「あははははは、面白い冗談ですね。諸葛亮先生」

           「……………………………………まあ、いいでしょう。確かに寒気もしますし、今日はこの辺りにしておきましょう

            か、陸遜」

           「はい」

 

           そんな主従(?)会話が行われている同時刻――――隣国にて発生した嵐は未だ治まる気配なく、猛威を振るって

           いた。

 

 

 

         ― 幼殿混乱 2 ―

 

 

 

           「どどど、どうしましょう…」

           「どうしましょうと言われても…」

 

           顔を真っ青にして上目遣い(キモイ)に見上げてくる黄祖に深く息をついて関平は痛む額を押さえる。

 

           「……………夏侯将軍はどうされたんですか?」

 

           (至極不本意だが)こういう時の彼だろう、と師匠でありが幼いころから接してきた夏侯惇の所在を尋ねた。

 

           「夏侯将軍は劉備殿を伴い、抗議と早急なる解決法を求めるべく諸葛亮のもとに向かわれました」

           「…………まあ、劉備殿を連れていったのは上策ですね…」

 

           それでもこの状態のを放っていくのは腹立たしいものを感じるが…。

           取りあえず師匠である夏侯惇がいないのだ、次に行くしかあるまい。

           そう考えて、ふっと気がつく。

           殿であるがこのような状況に陥って多少混乱していたのか……すぐに気がつかなかった自分に眉を寄せ、一番

           の適任者の名を出した。

 

           「様のことは妹である様が一番でしょう。…様はどうされたんです?」

           「「「(びくぅっ!!)」」」

 

           そう双子の妹であるの名を口にした瞬間、元から蒼ざめていた厳顔たち三人の顔が更に血の気を引かす。

           何とも分かりやすいその反応に片眉を跳ねさせ、関平は笑顔を浮かべた。

 

           「どうしたんですか、お三方…。よもや更なる隠し事など……ありませんよね?

           「ひっ…」

 

           思わず悲鳴を漏らした黄祖の頭を丁奉が叩くも遅く、ますます関平の笑顔が深まる。

 

           「丁奉殿…?」

           「(げ、わ、私か?!)…………その…」

           「丁奉殿?人の話を聞く際は目を合わすのが常識だと…お父上から教えて頂けなかったのですか…?

          「申シ訳ゴザイマセン!」

 

           半泣きの丁奉を促し震える声で事情を語らせる関平の姿を見て、残る厳顔と黄祖(避難済み)は手を合わせた。

           つくづく今日はツイてないな、丁奉…(ひどい)。

 

 

           「………………………つまり……様も同じように幼女になられた、と…?」

           「はぃ…」

           「……………………………これが解決したら、少し考えなくてはなりませんね…色々と

           「「「(色々って何を?!)」」」

           「その様はどちらに行かれたんです?黄祖殿」

           「!(恐怖から何とか立ち直り) 周泰殿が保護されています」

           「そうですか…、ならば様は安全ですね…」

 

           しかし、頼れる彼女がいないとなればどうするか。

 

           「………龍昇殿はどうしたんですか?こういう時の軍師でしょうに」

 

           というか、こういう時ぐらい役に立て、とでも言わんばかりの声音で関平が厳顔に問うた。

 

           「「「………………」」」

           「?」

 

           それに尋ねられた厳顔ばかりでなく残る二人も沈黙する。

           何だか微妙な沈黙だ。

           言うなれば…そう、先ほど厳顔と黄祖が丁奉を遠巻きに眺めていた時とよく似た空気が流れている。

 

           「その………………龍昇殿も止めようとした際に巻き込まれて……幼児に…」

           「……………………………まあ、あの方らしいと言えばらしいですね。余りにも

          「「「(ひどっ!!)」」」

           「彼の不運は今に始まったことではないですからね」

           「「「(あっさり言い切ったよ…!)」」」

           「では殿が彼の面倒をみているわけですか…」

 

           はっきり言ってこれでは打つ手がない。

           軍師も大将軍もいない状況でどうしろというのだろうか。

           いや、まあ何とかすることはするが…。

           こうなったら大人しく夏侯惇と劉備を待つしかないか、と

           今攻められたら確実に陥落させられるだろう自国に頭痛を覚え、関平は嘆息した。

 

           「………………その、……関平殿?」

           「…何です?」

 

           まだ何かあるのか、とちらりと声をかけた黄祖を見れば心底困ったように眉を下げていて。

 

           「殿のお相手は……どうしましょうか…?」

           「……………」

 

           自分のことだろうか、と大きな瞳を瞬いているに目を移す。

           殿だとか何だという以前に、この年代の子どもを放っておくのは人道的に問題がある。

           だからこそ周泰がを、が龍昇を請けおったのだ。

           が……。

 

           「「「お願いします!!もう関平殿しか頼れる方がいないんです!!!!」」」

 

           一斉に手を合わせて見やってくる三人に関平は閉口する。

           何なんなんだ、その押しの強い村人のような台詞は。(例:3猛将伝修羅モードにて怪物(=呂布)退治を頼む住民)

 

           「……私は、幼い子どもの相手などしたことはありませんよ」

           「「「弟君がいらっしゃるじゃないですか!!」」」

           「弟はそんな年ではありません。それ以前にあんなやつらと様を一緒にしないでください!」

           「「「(そこなのか?!)兄弟がいらっしゃるだけでも充分ですよ!」」」

           「充分じゃない、というかハモらないで下さ……っ、何ですか!その訴えかける目は!!!」

 

           気持ち悪く目を潤ませないで下さい!とぎゃあぎゃあと縋りつく視線を向ける厳顔たちに反論していた関平が、ぴた

           りと口を閉じた。

 

           「「「……関平殿??」」」

 

           余りにも突然の彼の動きに残る厳顔たちは首を傾げる。

           しばし誰もが口をつぐみ、沈黙が落ちる中、様子のおかしい関平を観察していた厳顔はあることに気付いた。

 

           「……殿…?」

 

           じいっと、外すことなく一点を見つめるの表情は少し前までのどこか不安そうなものと違っていて。

           例えるならば親鳥を見つけた雛というか、飼い主を見つけた子犬というか…。

           つまりはもの凄く期待のこもった瞳をしていた。

           それは刺さりそうなほど一心に一所へと向けられている。

           そう、固まった関平の横顔に。

 

           「………関平殿、保護者決定ですな」

           「……………」

 

           ぽん、と肩に手を置く厳顔の言葉を先のように跳ね除けることも出来ず

           自らを動かせるただ一人、の視線の前に関平は敗北を認めた。

 

 

 

 

 

 

 

           「それでは、殿!必ずや我らが解決法を見つけますゆえ、ご安心して関平殿とお待ち下さい!」

           「殿…、不便も多々あると思われますが、今しばらくのご辛抱を!」

           「ですが、関平殿とご一緒でしたら安全は確かですぞ、殿」

           「貴方たち、うるさいですよ…」

 

           言葉の後にちらりちらりと見てくる三人にこめかみを引きつらせながら関平はを連れ、執務室を後にするべく立ち

           上がる。

           何はともあれ、この格好だけは何とかしなくては…と動きづらそうなを不安げに見つめ、子のいる女官を脳内で

           模索した。

 

           「……何やら不思議な感がするのう…」

           「関平殿と殿、という組み合わせはよく目にするのですがね…」

           「いやあ、殿があのように幼くなられましたからなあ……何と言いますか、俗に言うロリ…」

        「さっさと調べて下さい、お三方

          「「「ハッ!命に代えましても!!」」」

 

           ぼそぼそと呟いていた三人にしっっっっかりと釘をさして、今度こそ部屋を後にした。

 

           (丁奉殿は ぼーなすかっと ですね)

 

           哀れ丁奉……危険発言をしたばっかりに。

           最後まで運のない彼らを置いて、関平とは女官長の元へと足を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

           「良かったですね、ちょうどよい服が見つかって…」

 

           こくりと頷くの服装は白地に薄い桃色が配色された品のいいもので。

           着心地のよさそうなの様子に安堵する。

           彼女を連れ入った瞬間、女官たちがこぞって歓喜しながら服を探し出したのを目にした時には思わず後ずさってし

           まったのだが…。

           まあ、それもある一種の愛情表現か、と深く考えないよう記憶の奥にしまう。

 

           「お疲れじゃありませんか、殿?」

 

           ずいぶんと長いこと服を選ばされていたを思い、そう問いかけたのだけど。

           声をかけた途端、ムッと眉を寄せたに目を瞬く。

 

           「…殿?」

 

           何か気に障ることでもあったのかともう一度問いかけても不満そうなその様子は変わらず、ますます彼女の眉は寄っ

           ていった。

 

           「……どうか、されましたか?様…」

 

           厳顔たちにも言ったように弟はいれど、妹はいない身で

           どう反応すればいいか分からず、恐る恐る声をかける。

           すると一瞬前の不機嫌が嘘のようには微笑んで。

 

           「???」

 

           何がどうしてこうなったのか、さっぱり分からないことに軽く混乱する。

 

           「え、と…殿?」

 

           あ、また眉が寄った。

 

           「………………様…」

 

           ……戻った。

 

           「……………」

 

           何とも言えない脱力感に回廊の柱に手をつき、うな垂れていたら心配そうにが見上げてくる。

           それに大丈夫です、と応えてぐるぐる回る思考に口元を引きつらせた。

 

           (………あの方々、様に殿 殿としか声をかけてなかったのか…)

 

           自分も慣れで言ってしまったとはいえ、さすがにこの年頃の少女に初っ端から(しかもあのゴツイ顔で)“殿!”なん

           ぞと詰め寄れば怖がっても仕方がないだろうに。

           後で厳重に注意しておこう、と一つ決めて姿勢を戻す。

 

           (取りあえず…二つほど分かりましたね…)

 

           一つは、“が自分についてきたのは名前を呼んだから”ということ。

           彼女が顕著な反応を示したのは自分が“様”と呼んだときから、だから。

 

           そしてもう一つ…。

 

           (やはり……様は心も幼くなられてるんですね…)

 

           姿が変わる前と同じ精神であればこうして“殿”と呼ばれることを嫌がるわけがなく。

           予想していたとはいえ、少し……戸惑う。

 

           (…………頼みましたよ、劉備殿…………夏侯将軍)

 

           本日二度目の不本意な思いを浮かべ、取りあえずはもう一つの心配のもと――に会うべく城を進んだ。

 

 

 

           幼き殿とともに、進みゆく道は洋々遠く。

 

 

 

           (報復される際は私もご協力いたしますので)

 

           そう心で夏侯惇へと付け加えた関平の足はひどく重かった。

 

 

                                                              05.07.17UP

           ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

           リク続きです。

           関平がちょっとヨロヨロ気味…(むしろ荒んでいる?・笑)。

           自分がいなかった時に起こったことだけに少し戸惑っているようです。

           今回は次への繋ぎなのでギャグは比較的少なめ(だと思う)。次が恐らく一番ギャグ濃度が強いかと…。

 

 

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